@グレイハウンドバス@
| 37時間・・・・。 |
| 丸一日でも大変なのにそれにまた丸半日・・・。 |
| どれだけ頭の中で計算しようが37時間は37時間である。 |
| それに夜が来ても観光バスツアーじゃあるまいし宿泊施設に入る時間と余裕を |
| スケジュールの中に取ってあるはずもない・・。縦断中は土地土地の停留所施設 |
| から施設へと小荷物運送もするこのバスは乗客のロビーなどのない小さな停留所 |
| では小荷物の上げ下ろしを運転手がし,その他の都市の停留所ではバスの |
| 乗り換えやらで一時間ほどの待ち時間をっ乗客は潰す。 |
| オレゴン・ポートランドで乗ったバスはユタのソルトレイクシティにて乗り換え。 |
| そのオレゴンからのバスの運転手がオーストラリアから移住した男でちと変わっていた。 |
| なにせあのオーストラリアの温容な訛りでとめどもなく己のことを話しまくったかと |
| 思えばこんな事を言い出した。 |
| 『ただいま,当社グレイハウンドバスでは小荷物運送の能率度のコンテストを |
| やっております。そのコンテストの能率の具合によりまして私達,すなわち |
| ドライバーの今期のボーナスが決められるわけです。ですので各小停留所にて |
| の小荷物の上げ下げ時には各人外に出て手足を伸ばされるのもかまいませんが |
| どうか荷物上げ下げ中の私には話し掛けないでください。』 |
| なんともはや奇妙な申し入れである。大柄で小太り,白人の典型のような骨組み |
| のこの50代も半ばらしいドライバー,陽気なようで乗客に偉そうでもある。 |
| いちいちものの言い方が最後には有無を言わせぬ説教調になっていたりする。 |
| それでもまあ別にそれくらいなら別に話し掛けなきゃいいだけだし奴と私には |
| どうでもいいことだった。しかしやはり中にはどうもやっちゃいけないと言われて |
| しまうと,やってしまわずにはおれない性格の人間もいるらしい・・・・・・・・・。 |
| ソルトレイクシティーまでの間の小さな停留所で10分程停車して例の荷物の |
| 上げ下げのお時間。まぁ〜頑張る頑張る。外見から連想させる普段の勤務態度 |
| とは打って変わった熱の入れ様であるドライバーになんとあれだけクギをさされて |
| いたにもかかわらず乗客の一人の男がなにかいいたげに近づたではないか。 |
| そしてその乗客の男が『あ』と第一声を発した瞬間にそれは起こった。 |
| 『どおおおぉぉぉん,とぉぉくとぅみぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!(Dont't talk to me) 』 |
| 両手で頭を抱え物凄い形相でドライバー,怒りくるったではないか。 |
| それでも挨拶にと腕をあげたまま凍結状態の男を尻目に作業続行のドライバー。 |
| なんせボーナスがかかってるからね。 |
| 寡の男はというと,理不尽なドライバーの態度にぶつぶつとご不満の様子。 |
| あのね,だからドライバーは言ってたじゃないの。『話し掛けるな』って。 |
| 食事など馬鹿高いだけのインターの様なところで摂ったりしながら後はなにごともなく |
| そして無事にソルトレイクシティーへ。 |
| 約一時間の待ち時間のあとにバスを乗り換え再出発。 |
| プロボ市の停留所とも言い難い小さなところでまた荷物の上げ下げである。 |
| これさえなければラスベガスまで37時間は絶対かからないのではないか。 |
| こうも荷物の上げ下げが多いとなんが乗客の一人一人までが荷物みたいに |
| 扱われているような気分になってくる。本当は『運送が本業で人はオマケね』 |
| みたいな感覚のような気がする。多数でハイ乗って〜,ハイ降りて〜って |
| 牛の群れか・・・・? |
| とにかくその停留所もどきでは10分間みんなも外に出る気もなく夜も遅かったし |
| 車内でボーっと時間を潰していた。 |
| で,ふと窓の外を見ると男が一人外灯を背にして立っている。 |
| 男はバスの方へ歩いてくるかと思いきや,やりすごしバスの後部へと姿をくらました。 |
| 何の気なしに観察していたら,そいつはまたもと来た方向へと足早に立ち去って行く。 |
| 停留所に誰かいたのかと後は気にせず,すでに苦痛になりきっていたバス旅行 |
| があと何時間で終わるのか曇った頭の中で単純計算を繰り返しはじめた。 |
| プロボ市にて無事運送作業を終え後はラスベガスまで11時間あまりとなった。 |
| すでにシアトルから一日以上経過している。あ〜・・しんど〜・・。 |
| しかし,もうすぐである11時間なんてあっという間よ〜。 |
| と思っていたその時バスが真っ暗で時折交通はあるものの辺ぴなハイウェイの |
| 脇へ停車したではないか。なんだ,なにかあったのか?と乗客みんなで座席から |
| 身を乗り出した時。ソルトレイクシティーからのドライバーが運転席から立ち上がって |
| 忙しそうこう言い放った。 |
| 『バスのラジエーターが誰かに破壊されたようで,これ以上運転不可能です。 |
| ユタ州のグレイハウンドバスは今ストライキに入っていてストライキ側のグレイハウンド |
| に対する営業妨害の線が原因として一番有力だと思います。今から私がさっきの |
| 停留所まで歩いて戻り,連絡して別のバスを用意してもらいますのでみなさんは |
| ここで大変ですが待っていてください』無線も通じないらしい。 |
| がーん・・・でもそれって一体あと何時間かかるんだ〜ぁ? |
| 警察にも通報して来てもらうらしいが・・・。 |
| さらにドライバーは出掛けに乗客にこういった。 |
| 『私がいない間外に出て一服するなりなんなりしても構いませんが,いいですか |
| くれぐれも遠くまでうろうろしないようにしてください。ここは走りすぎる車からの |
| 発砲による死亡事件が多いところで有名ですから』 |
| お,おっけー・・・・・・・? |
| しかし前の運ちゃんとは雲泥の差である。わたしはこの時のドライバーの |
| 慌てずしっかりとした対処の仕方,さらにはあんな危険な場所からなんと一人で |
| 歩いて最寄りの停留所まで援助を求めに仕事とはいえ行ってくれたプロフェッショナル |
| な行動がなにか頼もしくて思わずホレてしまったワ(笑)。 |
| プロボでわたしが見たあの男がラジエーター破壊の犯人だったらしい。 |
| 何時間も後に別のバスが来た時には私は警察に事情聴取もしっかり取られていた。 |
| 目撃者として後々に自宅まで連絡がいくかもしれないとのこと・・・とほほ・・。 |
| そうはいっても顔なんて全然見えなかったんだけど・・。 |
| これは帰ってからも面倒になりそうだ〜。 つづく |